大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)7255号 判決 1983年6月30日
原告(反訴被告)
山田こと崔募
被告(反訴原告)
中川重之
ほか一名
主文
一 本訴(昭和五七年(ワ)第七二五五号)について
1 被告らは各自、原告に対し、金一八万三、九三八円およびこれに対する昭和五五年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用は原告の負担とする。
4 この判決は原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
二 反訴(昭和五八年(ワ)第一三九〇号)について
1 反訴被告は、反訴原告に対し、金八七万八、四〇〇円およびうち金七九万八、四〇〇円に対する昭和五五年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
2 反訴原告のその余の請求を棄却する。
3 訴訟費用はこれを五分し、その一を反訴原告の負担とし、その四を反訴被告の負担とする。
4 この判決は反訴原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 本訴請求の趣旨
被告らは各自、原告(反訴被告・以下原告という)に対し、金一、九三四万三、二九七円およびこれに対する昭和五五年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告らの負担とする。
仮執行の宣言
二 本訴請求の趣旨に対する答弁
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
三 反訴請求の趣旨
原告は、反訴原告不二運輸株式会社(本訴被告不二運輸株式会社・以下被告会社という)に対し、金九九万八〇〇〇円およびうち金八九万八、〇〇〇円に対する昭和五五年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は原告の負担とする。
仮執行の宣言。
四 反訴請求の趣旨に対する答弁
被告会社の請求を棄却する。
訴訟費用は被告会社の負担とする。
第二本訴請求原因
1 日時 昭和五五年一〇月三日午前五時四五分頃
2 場所 大阪府守口市寺方本通二丁目二番地先交差点
3 加害車 普通貨物自動車(大阪一一き三〇七〇号)
右運転者 被告中川重之(以下被告中川という)
4 被害者 普通貨物自動車(大阪四五ふ五八九三号・以下被害車という)運転中の原告
5 態様 原告運転の被害車が、南から東へ右折しようとして右交差点中央で一時停止中、南進してきた被告中川運転の加害車がその荷台右前部を、停止中の被害車の右前部に衝突。
二 責任原因
1 運行供用者責任(自賠法三条)
被告会社は、加害車を所有し、業務用に使用し、自己のために運行の用に供していた。
2 一般不法行為責任(民法七〇九条)
被告中川は、自動車を運転して右交差点を通過するに際しては、法定速度を遵守するのはもとより前方を注意し、同交差点内で右折するため一時停止している車の有無を確かめ、適切なハンドル操作をしてこれに接触・衝突しないように運転する注意義務があるのにこれを怠り、脇見をし、しかも、法定速度を上回る速度で同交差点に進入したため、被害車に接触・衝突させ、原告に後記の傷害を負わせた。
三 損害
1 受傷、治療経過等
(一) 受傷
右下腿開放性骨折、右手背挫傷、顔面打撲挫傷、左足背挫傷
(二) 治療経過
入院
昭和五五年一〇月三日から同年一二月六日まで
昭和五六年九月一六日から同月一九日まで
通院
昭和五五年一二月七日から昭和五六年一二月二三日まで(但し、昭和五六年九月一六日から同月一九日までを除く)
(三) 後遺症
原告の後遺症状は、右膝関節、右足関節の屈曲障碍、下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残すなどの症状を残して昭和五六年一二月二三日固定した。
2 治療関係費
(一) 治療費 一一四万五二〇円
自賠責より治療費として一一四万五二〇円支払済み。
(なお、その他の治療費は医療扶助を受けて支払つた。)
(二) 入院雑費 六万五、〇〇〇円
入院中一日一、〇〇〇円の割合による六五日分
(三) 入院付添費 二二万七、五〇〇円
入院中原告の妻が付添い、一日三、五〇〇円の割合による六五日分
3 逸失利益
(一) 休業損害
原告は事故当時二六歳で、宮本組土木に運転手兼作業員として勤務し、一か月平均二五万三、六六七円の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五五年一〇月三日から昭和五七年六月三日まで休業を余儀なくされ、その間五〇七万三、三四〇円の収入を失つた。
(二) 将来の逸失利益
原告は前記後遺障害のため、その労働能力を二〇%喪失したものであるところ、原告の就労可能年数は三九年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別ホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一、二九六万七、四五七円となる。
4 慰藉料 四〇〇万円
入通院慰藉料 一五〇万円
後遺症慰藉料 二五〇万円
四 損害の填補
原告は次のとおり支払を受けた。
自賠責保険金治療費一一四万五二〇円、後遺症関係二九九万円
五 本訴請求
よつて請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。)を求める。
第三本訴請求原因に対する被告らの答弁
一の1ないし4は認めるが、5は争う。
二の1は認める。
二の2は争う。
三は不知。
四は認める。
第四本訴請求に対する被告らの主張
一 免責
本件事故は原告の一方的過失によつて発生したものであり、被告中川には何ら過失がなかつた。かつ加害車には構造上の欠陥または機能の障害がなかつたから、被告らには損害賠償責任がない。
すなわち、被告中川の運転する加害車は、南北道路の追越し車線を北から南に走行し、当該交差点北約一五ないし二〇メートルの地点で対面赤信号に従い一時停止し、次いで同信号が青になつたため右信号に従つて発進し、時速約二〇キロメートルで同交差点に進入したとき、西から東に対面信号を無視して直進してきた被害車を発見し、急制動するも及ばず加害車の横部に被害車の前部が衝突してきた。
二 過失相殺
仮りに免責の主張が認められないとしても、本件事故の発生については原告にも前記のとおりの過失があるから、損害賠償の算定にあたり過失相殺されるべきである。
三 損害の填補
本件事故による損害については、原告が自認している分以外に、自賠責保険金一二万二、六〇〇円が支払われた。
第五被告らの主張(右第四項)に対する原告の答弁
被告らの主張事実中、一及び二は否認し、三は認める。
第六反訴請求原因
一 事故の発生
1 日時 昭和五五年一〇月三日午前五時四五分頃
2 場所 前記交差点
3 加害車 前記被害車(以下被害車という)
右運転者 原告
4 被害車 前記加害車(以下加害車という)
5 態様 被告中川運転の加害車が右交差点を北から南へ直進中、同交差点を西から東へ直進してきた原告運転の被害車が右加害車に衝突
二 責任原因
一般不法行為責任(民法七〇九条)
原告は、自動車を運転して交差点を通過するには、設置されている信号機の表示に従うのはもとより、前方を注意して進行すべき注意義務があるのに、これを怠り、対面信号赤の表示を無視して同交差点に進入したため、信号機の表示に従い南進していた加害車に衝突した。
三 損害
被告会社は次のとおりの損害を蒙つた。
1 車両代 五〇万円
被告会社の所有する加害車両(車検有効期間約一か年を残す四八年いすずTL型二トン貨物自動車)は本件事故により廃車するのやむなきに至つた。加害車両の事故当時の交換評価は五〇万円である。
2 廃車に伴う休車損害 二八万八、〇〇〇円
廃車に伴い新車を注文し使用しうるまで(昭和五五年一〇月四日から同月二三日まで)の日数中、休業日四日間を除外した一六日間につき、加害車を使用したならば得られたであろう利益(一日について一万八、〇〇〇円)。
3 救援作業費 五万円
4 積荷破損弁償費 六万円
5 弁護士費用 一〇万円
四 反訴請求
よつて、反訴請求の趣旨記載のとおりの判決(遅延損害金は民法所定の年五分の割合による。ただし弁護士費用に対する遅延損害金は請求しない。)を求める。
第七反訴請求原因に対する原告の答弁
一の1ないし4は認めるが、5は争う。
二及び三はいずれも否認する。
第八反訴請求に対する原告の主張
過失相殺
本件事故の発生については被告中川にも前記のとおり前側方不注視、速度違反の過失があるから、使用者である被告会社の賠償請求にあたつては被害者側の過失として、損害賠償額の算定にあたり過失相殺されるべきである。
第九原告の主張(右第八項)に対する被告会社の答弁
原告主張事実は否認する。
第一〇証拠
記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおり。
理由
第一事故の発生
本訴及び反訴の各請求原因一の1ないし4の事実は、当事者間に争いがなく、同5の事故の態様については後記第二の二で認定するとおりである。
第二責任原因
一 運行供用者責任
本訴請求原因二の1の事実は、当事者間に争いがない。
従つて、被告会社は自賠法三条により、後記免責の抗弁が認められない限り、本件事故による原告の損害を賠償する責任がある。
二 一般不法行為責任
(一) 成立に争いのない乙第一号証の一ないし三、第三号証の一、二、第四ないし第六号証、甲第八号証の一及び二(但し、後記措信しない部分を除く)、原告及び被告中川本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く並びに弁論の全趣旨を総合すれば
1 原告は、被害車を運転して交通整理の行なわれている本件交差点を信号機の表示青に従い南から東に向かつて右折する際、対向直進のマイクロバスを認めたので、その通過を待つため同交差点内において一時停止したが、右マイクロバスに追従して対向車線を直進してくる車はないものと即断して対向車の有無を確認せず、自車の進行すべき東方道路の方向のみを見て時速約五キロメートルで再び右折進行を始めたときに加害車に衝突した。
2 被告中川は、加害車を運転して本件事故現場付近南北道路を北から南へ向けて進行中、同交差点対面信号赤に従いマイクロバスの後ろに停止し、対面信号が青に変つたため右マイクロバスに続いて発進(なお、加害車は、西行き右折車線、追越車線、走行車線のうち追越車線を走行している。)して時速約二〇ないし三〇キロメートル(制限速度時速四〇キロメートル)の速度で同交差点中央部まで直進した際に被告車が衝突した。なお、被告中川は、衝突地点手前約九・八メートルに至りはじめて被害車両の進行してくるのを認めた。
3 車両の衝突地点は、南北道路東歩道端から約五・一メートル西側(右道路幅員は約一六メートル)、右道路上本件交差点北横断歩道南側白線より南へ約一六メートルの地点であつた。また、車両の衝突痕をみると、加害車は、運転席後ろ及び荷台右側面前部を凹損しており、被害車は、フロントガラス破損、運転席及び助手席窓ガラス破損、前面右側凹損、右前フエンダーが右前輪に接着し走行不能の状態であつて、また、ハンドルも曲損し、運転席全体が右に曲り荷台と左助手席側が約三〇センチメートル開いていた。従つて、右衝突地点及び衝突痕によれば、被害車は右折進行している際に加害車の運転席右後部に自車右前部を衝突させたものである。
以上の事実が認められ、甲第五号証、第八号証の一、二並びに原告及び被告中川本人尋問の結果のうち、右認定に反する部分は、前記各証拠及び衝突地点、車両の損傷部位に照らし、措信することができず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
(二) 右事実によれば、被告中川には、加害車を運転して本件交差点を直進するに際し、前方及び右側方を注視しなかつた過失が認められるのであるから、被告会社主張の免責の抗弁は理由がない。
第三原告の損害
1 受傷、治療経過等
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第二号証、原本の存在につき争いなく、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第九号証によれば、本訴請求原因三1(一)(二)の事実が認められ、かつ後遺症として右膝関節、右足関節の屈曲障害、下肢の三大関節中の一関節の機能に障害を残す等の症状が固定(昭和五六年一二月二三日頃固定)したことが認められる。
2 治療関係費
(一) 治療費
弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる乙第一三号証によれば、原告の治療費は一一四万五二〇円を要したことが認められる。
(二) 入院雑費
原告が六五日間以上入院したことは、前記のとおりであり、右入院期間中六五日につき一日一、〇〇〇円の割合による合計六万五、〇〇〇円の入院雑費を要したことは、経験則上これを認めることができる。
(三) 入院付添費
原告本人尋問の結果と経験則によれば、原告の妻は前記入院期間中六五日間付添看護を要し、その間一日三、五〇〇円の割合による合計二二万七、五〇〇円の損害を被つたことが認められる。
3 逸失利益
(一) 休業損害
原告本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる甲第四号証及び原告本人尋問の結果によれば、原告は事故当時二六歳で、宮本組土木に勤務し、一か月平均二五万三、六六六円(円未満切捨て・以下同じ)の収入を得ていたが、本件事故により、昭和五五年一〇月三日から昭和五六年一二月二三日の症状固定まで休業を余儀なくされ、その間合計三七七万九、三八五円の収入を失つたことが認められる。右症状固定の日以降の休業損害については相当因果関係がない。
(二) 将来の逸失利益
成立に争いのない甲第三号証、前記甲第九号証、および前記認定の受傷並びに後遺障害の部位程度によれば、原告は前記後遺障害のため、昭和五六年一二月二四日から就労可能期間中はその労働能力を二〇%喪失したものと認められるところ、原告の就労可能年数は昭和五六年一二月二四日から三九年間と考えられるから、原告の将来の逸失利益を年別のホフマン式により年五分の割合による中間利息を控除して算定すると、一、二九七万二、八八五円となる。
4 慰藉料
原告の傷害の部位、程度、治療の経過、後遺障害の内容程度、年齢その他諸般の事情を考えあわせると、原告の慰藉料額は四〇〇万円とするのが相当であると認められる。
第四過失相殺
前記第二認定の事実によれば、本件事故の発生については原告にも左側方を注視せず、直進車の直近を右折した過失が認められるところ、前記認定の被告中川の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として原告の損害の八割を減ずるのが相当と認められる。
そうすると、原告が被告らに対し請求しうる損害賠償金は四四三万七、〇五八円となる。
第五原告への損害の填補
本訴請求原因四の事実及び本訴請求に対する被告ら主張(第四)三の事実は、当事者間に争がない。
よつて原告の前記損害額から右填補分四二五万三、一二〇円を差引くと、残損害額は一八万三、九三八円となる。
第六被告会社の損害
被告会社代表者本人尋問の結果により真正に成立したものと認められる乙第七、第一〇ないし第一二号証及び被告会社代表者本人尋問の結果によれば、(1) 被告会社所有の加害車は本件事故により廃車のやむなきに至つたが、事故当時の加害軍の中古車交換価格は五〇万円であつたこと、(2) 加害車の廃車に伴い廃車手続き及び新車を注文し使用しうるまでの日数中、休業日を除外した一六日間につき、加害車を使用したならば得られたであろう利益二八万八、〇〇〇円を失なつたこと、(3) 加害車を事故現場から運送するなど救援作業に要した費用は五万円であつたこと、(4) 加害車積荷(エースコツクラーメン七〇箱分)のうち返品可能なものについては返品し、本件事故により商品価値を失つて返品不可能となつたものの価額から加害車による運賃収入を差引いた残額六万円を原告に代つて荷主に弁償したことが認められ、右認定を覆すに足りる証拠はない。
第七過失相殺
前記乙第三号証の一、二、被告中川、被告会社代表者各本人尋問の結果によれば、被告会社は被告中川を運転手として雇用し、被告中川は被告会社の命により被告会社所有の加害車を運転して業務の執行中、本件事故を惹起したものであることが認められ、そうすると、被告中川の過失は被害者側の過失として、被告会社の損害からこれを差引くのが相当である。
ところで、前記第二認定の事実によれば、本件事故の発生については被告中川にも前側方不注視の過失が認められるところ、前記第四認定の原告の過失の態様等諸般の事情を考慮すると、過失相殺として被告会社の損害の二割を減ずるのが相当と認められる。
そうすると、被告会社が原告に請求しうる損害賠償金は後記弁護士費用を除き七九万八、四〇〇円となる。
第八被告会社の弁護士費用
反訴事案の内容、審理経過、認容額等に照すと、被告会社が原告に対して本件事故による損害として賠償を求め得る弁護士費用の額は八万円とするのが相当であると認められる。
第九結論
よつて被告らは各自、原告に対し、一八万三、九三八円、およびこれに対する本件不法行為の日の翌日である昭和五五年一〇月四日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金を、原告は被告会社に対し八七万八、四〇〇円、およびうち弁護士費用を除く七九万八、四〇〇円に対する前同日から支払済まで年五分の割合による遅延損害金をそれぞれ支払う義務があり、原告及び被告会社の各請求は右の限度で正当であるからこれを認容し、その余の請求はいずれも理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、仮執行宣言につき同法一九六条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判官 坂井良和)